大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和36年(く)102号 決定 1961年10月24日

少年 B(昭一七・五・四生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の理由は別紙抗告申立書記載のとおりであつて、原決定の処分の著しい不当を主張するものである。

よつて記録を調べてみるに、少年の本件非行はその態様、罪質共極めて悪質であり、殊に本件強盗の犯行については、少年はKと共に主謀者となり且つ最も積極的に行動しているのである。そこで少年の性格並に環境について検討するに、東京家庭裁判所調査官柳沢えい作成の少年調査票によると、少年は甘やかされて育つたほかは比較的恵まれた家庭環境において成長し、本件の共犯者以外にはさしたる不良交友関係もないと認められるのであるが、東京少年鑑別所の鑑別結果通知書によると、少年の性格的特徴として、意思欠如性、即行性、気分易変性、自己顕示性、爆発性等が著しく、行動観察の結果によつても他の少年に対し雷同的であるというのであり、殊に本件強盗並に窃盗の犯行は、Kが同僚の所持金を窃取して少年等をさそつて旅に出た先で行つたもので、Kについては自棄的な動機によるものと認められるのであるが、所持金を全く使い果したわけでもなく、少年については本件の如き大胆不敵の犯罪を敢行するほどの明確な動機が認められないのであつて、この点からいつて少年の本件非行は前記の如き意思欠如、即行等の性格に由来する面が著しいものと認められ、また家庭裁判所調査官は少年は罪の重大性に対する認識を欠いているとなしているが、その点は少年の司法警察員に対する供述等からも窺われるのであり、これらの点からすると、少年については再犯の虞なしとせず、結局少年は施設に収容してその性格を矯正し、殊に自律性を涵養せしめることが最も必要と認められるのであり、その施設として中等少年院を選択した点も、少年の年令等に徴し適当であつて、原決定の処分は極めて相当である。所論は共犯者Kに対する処遇との均衡の点を主張するが、右Kに対する処分が果して妥当であるかどうかの点は兎も角として、少年に対しては中等少年院送致の原処分が相当であることは右のとおりであり、その他少年には非行歴がなく本件が偶発的犯行と認められる点、保護者に保護能力のある点等に関する所論を考慮しても、原処分が不当なものとは認められない。(なお所論は長野家庭裁判所上田支部調査官青木敏夫の少年に対しては保護処分が相当である旨の意見を引用し、本件の処分は右意見に反し行われたものであると主張するが、保護処分とは刑事処分に対する用語であつて、少年院送致をも含むものであることは少年法の規定に照し明かでありこの点は附添人の誤解によるものと認められる)

よつて本件抗告は理由なきものと認めて、少年法第三十三条第一項により棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 坂井改造 判事 荒川省三 判事 今村三郎)

別紙 (抗告の申立書)

少年 B

右の者に対する審判事件につき東京家庭裁判所が昭和三十六年九月二十二日中等少年院に送致する旨審判があつたが不服につき抗告を申立てます。

抗告の趣旨

原決定を取り消して事件を東京家庭裁判所に差し戻しする旨の御裁判を求める。

抗告の理由

一、原決定は、処分の著しい不当があるから破棄されねばならない。

原決定非行事実記載の共犯たるKは、昭和三十六年九月二十日仙台家庭裁判所における審判で在宅観察に付せられ保護司の下に置かれることになつた。

右決定と原決定と比較すれば、著しい不当があることは、次の点で明白である。

(イ) 即本少年は、本件非行前には、非行歴は全くないが、Kは、以前非行歴がある。

○瀬○の司法警察官に対する供述中Kにつき、

(八二丁裏)今年のお盆前ですから六月末迄は、真面目に働らいていた、七月末か八月の初旬頃家出し後一度も家の方に姿を見せません」(八三丁裏)「Kは友人が良くなく世間でいうぐれん隊というのが主な友人で私の知つている範囲では、D(本件共犯)Sである。」(八四丁裏)「悪い事をしなければ良いがと心配していた。」(九二丁裏)「Kの方は、兄弟があまり良くないと聞いている」とあること。

Kの司法警察官に対する供述中(二五六丁)「八月七日頃より、仕事を休み都内で遊んでいる。」(二五七丁)「Nの背広上衣より千円札二つ折相当厚目を窃取した。」(三〇三丁によれば、三六、〇〇〇円を窃取したものである)とあることよりすれば、Kの非行歴は、明瞭である。

(ロ) 本少年の環境は、中流家庭で、両親健在で保護能力あり、兄弟、姉妹、家庭の折合よく悪評ないことは、身上調査表の記述の通りである。かかる環境と、Kのそれとを比較すれば、○瀬の供述のように、Kの家庭生活程度、同人が○瀬方に雇わされたこと並その兄弟が素行のよくないことからして本少年の環境が保護能力があることは明白である。

原決定は、本非行事実が少年の旅先における偶発的事件なのに、即少年が当時板橋区○○××番地○○川(姉の夫)方同居中なのに、住居不定となしたことは明らかに少年に対する環境を留意しないものと云うべきである。

(ハ) 本件非行事実は、すべて、少年とKの主導によることは明白でその非行の加工程度においては、甲、乙はないものである。

(原決定は、本件非行事実中(3)は少年の単独犯と認定せられたがこれは誤りで少年とKの共謀によるものであることは一件記録中の各供述によつて明白になる)Kの本件非行における態様を共犯たるD、Sのそれに比較し且つ前記非行歴を添せ考えれば、Kは年少なるも明らかに全般に亘り主導的地位でなしたものである。

そして右D、Sは、補導委託の決定があるのに、Kが在宅観察であること、自体が処分の正当性を認定出来ないことにもなる。

(ニ) 少年に対する長野家庭裁判所上田支部調査官青木敏夫の同部裁判官草深今朝重宛昭和三十六年九月六日付意見書によれば、東京家庭裁判所移送の理由中に、「本件は重罪であり且つその首謀者であるが少年には、非行歴はなく、性格的に、やや深い問題点を持つように感ぜられるも反省もしており保護処分が相当のものと認められる」との記載がある。右のように少年に対し、保護処分が相当であるとの意見に対し、共犯者三名は各れも保護処分にされたのに、原決定が、前記意見に反し、本少年のみを中等少年院に送致した合理的理由を認めることは出来ない。

(ホ) 原決定は、少年の性格にはかなりの変調が認められる旨あるが病の免疫性のように、又風雪に耐えた年輪のように、或は多少の癖のあるものが役立つように、少年時の悪事の反省が却つて身を助けていることは吾人のよく体験するところである。

少年は本非行後に自己並自己と社会、家族との関係を再認識したものである。

性格に対する自覚とそれに基く新たな行動力を考慮しないでしかも物理的尺度で検定出来ないもの(最も正直な証人でも事実の半分しか語らないような人間の尺度)で少年の性格をかなりの変調と認定することはいささか無理というべきである。

(ヘ) 原決定は少年につき再非行の虞なしとしない旨あるが共犯Kの前記非行歴共犯Dの同人の身上調査表による近隣の風評の不詳な点傷害罪二件の点等を比較せば、K等の再非行の虞は本少年以上なのに少年のみ施設に収容して規律ある生活のもとに矯正教育すると断定したのは、正に不当というべきである。

少年の身上調査書によれば、本件犯行の動機も数人が勢いにまかせ偶発的と認められ非行の前科なく改悛の情が認められる点よりするも少年は他の非行歴ある少年の誘因に乗ぜられたものと云うべき特段のものとすべきではない。

以上の点を綜合すれば原決定は著しい不当というべきであるから破棄されねばならない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例